the Beastの新しいゲーム体験
the Beastでは、
仕掛け人の一人であるマイクロソフト社のデザイナー、エラン・リー氏が語る様に、
「現実」と「虚構」の境目を、なるべく曖昧にする為に、
当時としては全く新しい手法、ギミックを駆使し、それまでには無い新しいゲーム体験を生み出しました。
ストーリーを1つのメディアで完結させずに、
ありとあらゆる生活メディアに分散的に情報をばらまく新手のクロスメディア手法や、
実際に登場人物になりきった生身の人間と電話での会話、
電子メールでのやりとり、
難解なパズルへのチャレンジ、
そして、
ネット上での何千、何万という数の人とのコラボレーション。
具体的な例として、
例えばこんなパズルが用意されていました。
元素記号の数式を解く事で、
プレイヤーはストーリーのヒントとなる新たなホームページのアドレスを入手する事ができます。
このパズルはまだ想像可能な範囲の様な気もしますが、
中には制作者側が、解答に9ヶ月はかかるだろうと想定していたものもあったそうです。
(しかしながら、それも20分で解かれてしまったらしく、
制作者側は1日18時間労働でパズルを考えてたそうですが…)
リアルイベントも行なわれました。
『マサチューセッツ工科大学でのビデオ上映イベント』
→スティーブン・スピルバーグ監督のインタビューが上映され、
その中で、ジャニン・サラの名刺を出す等の演出がありました。
『反ロボット市民軍決起集会』
→ストーリーの中でA.Iロボットの軍事利用が1つのキーワードになっており、
その決起集会が、ニューヨーク・ロサンゼルス・シカゴにあるレストラン(クラブ)の計3か所で同時開催されました。
そこで配られたリーフレットには、
折り重ねると秘密のメッセージが現れる仕掛けが施されており、それと開催された場所の通りの数字を組み合わせることでURLがわかる仕組みとなっていたそうです。
こってますね。
このように、リアルイベントがストーリー進行においても大変重要な意味を持っているのが、the Beastの特徴とも言えます。
(もはや一人では絶対に完結出来ないゲームだという事も、
お分かり頂けると思います。)
参加者が協力しあい、作り上げて行く双方向型エンターテイメント
これら様々なイベント、パズル、ストーリー情報は、
基本的には様々なメディアやシーンを通じて分散的にプレイヤーに届けられていました。
当然、途中参加者はキャッチアップが必要となりますが、
情報がまとまっていない事にはどうにもなりません。
通常の漫画や映画等のコンテンツとは違い、the Beastではリアルな時間が流れているからです。
しかし、
ゲーム最中に、
実際にプレイヤー達の手によって議論や情報交換としての場である「フォーラム」や、
日本でいうところのまとめサイト的なものが作成されました。
それがこのcloudmakersというサイトです。
(cloudmakersとは、the Beastのコアプレイヤー達のグループでした)
Cloudmakersオフィシャルサイト
http://www.cloudmakers.org/
このサイトには、
the Beastの概要、プレイの仕方、ストーリーがまとめられおり、
このARG内で使用された他のウェブページへはここから飛べる様になっています。
The BeastはARG進行中も制作途中だったこともあり、
常にARGの進行の最先端にいたCloudmakersの存在は、
The Beastのストーリーやゲームの進行に大きな影響を及ぼしました。
少し余談ですが、その後行なわれるARGには、
この「フォーラム」と「まとめサイト」がセットで設置されているケースが大半を占めています。
又、ワイアードニュースに届いたメールに、
この様なものがあったそうです。
「実際、昨日はこれまでで一番見事な『ゲームデー』だった。ライア(ゲームの登場人物の1人)から緊急の電子メールで、『赤の王』(Red King)という人物が誘拐され、事件の解決に手を貸すことができるのはわれわれだけだ、と知らせてきた。電子メールには、電話番号がはっきりとわかる食堂の『伝票』をスキャンしたものが添付されていた」
「そこに電話をかけてみて、みんな本当にびっくりした。完全にゲームの登場人物になりきった生身の人間が電話に出たのだ。電話の主は、表向きは自由の女神像の警備員をしているというマイク・ロイヤルだ。その日はずっと、気が進まない様子のマイクをその気にさせ、何とか彼を引き込んで、赤の王を助けてもらおうとみんなが試みる。マイクが大学でフットボールをしていたことがわかると、ゲームプレイヤーたちはそれを糸口に、マイクの機嫌をとろうとした」
当時のワイアードの記事にもありましたが、
まさに今まで見た事も聞いた事もない社会工学です。
ユーザー参加型の最たる例ではないでしょうか。
the BeastからARGが始まった
Alternate Reality Gaming という言葉は、
the Beastが誕生した後に後付けした形で世に出ました。
史上初の大型ARG、The Beastは、スピルバーグ映画A.I.のプロモーションと、映画の世界観の拡張を目的として作られ、
後に制作されるARGの基本となりました。
WEB上に架空サイトを多数作ることで未来の世界を構築し、
多数のパズル・ミッションを配置した今でいうところの古典的なARGです。
ラビットホール、クロスメディア型分散配信、プレイヤーの行動喚起、プレイヤー間の協力、パペットマスターの存在など、今では当然とされているARGの特徴の多くはこのARGから始まりました。
しかし、
ARGの本質的特徴=the Beastの特徴
という風に簡単に結論付け出来ないのが昨今の状況です。
前述した通り、
これまでに200個弱のARGが実施されており、
ARGも既に多様化の時代を迎えています。
(こちらに関してはまた今度エントリーしたいと思います。)
しかしいずれにしても、the Beast という1つ作品が、
ARGという大きなジャンルを生み出した事には変わりありません。
その意味で、この作品を理解する事はARG 理解の第一歩と言えます。
最後に
the Beastの紹介、
いかがでしたでしょうか?
様々かいつまんでしまったので、
理解し難い部分等あるかと思いますが、
ご遠慮なくコメント、メール等で質問して抱ければと思います。
以下、当時のワイアードニュースの記事です。
是非こちらも参考になさって下さい。
映画『A.I.』の裏に潜むもう1つのストーリー(上)
2001年6月29日
http://wiredvision.jp/archives/200106/2001062907.html
スピルバーグ監督映画『A.I.』をめぐる謎のウェブサイト群
2001年5月 7日
http://wiredvision.jp/archives/200105/2001050706.html
各種参考データ
•The Beast (game)- Wikipedia
http://en.wikipedia.org/wiki/The_Beast_ (game)
•The Beast ARG Presentation 10.2.08
http://www.scribd.com/doc/6470266/The-Beast-ARG-Presentation-10208
•Cloudmakersオフィシャルサイト
http://www.cloudmakers.org/
受賞歴
•Best Idea, New York Times Magazine
•Best Website, Entertainment Weekly
•Best Advertising Campaign, Time Magazine
数値データ(一部)
•全世界で300万人以上の参加者(42 Entertainment)
•最初の3時間で10万人の参加者(Lee in Meadows, 2003)
•Cloudmakersができてから48時間以内に150人が登録(Gosney, 2005,)
•ゲーム終了時には Cloudmakersに7400人のメンバー(Gosney, 2005)
•Cloudmakers内のメッセージ数は43000(Stewart, 2001)
•Time Magazine, CNN, USA Todayなど主要メディア上で3億回を超える広告表示回数を誇る。これはSlashdot, Wired, Ain’t it Cool Newsなどの比較的小規模なメディアでも同等(42 Entertainment)
•開発コスト一億円以上(DreamWorks)
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